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神戸地方裁判所 昭和31年(行)17号 判決

原告 株式会社玉田質店

被告 灘税務署長

主文

被告が昭和三十年三月三十一日付を以て原告に対し昭和二十八年度分の所得金額を金二二七、五〇〇円、法人税額を金九五、五五〇円とし、同二十九年度分所得金額を金一五九、二〇〇円、法人税額を金六六、八六〇円とした更正決定のうち同二十八年度分所得金額につき金二〇九、九一八円、法人税額につき金八八、一五〇円、同二十九年度分所得金額につき金一〇九、九二一円、法人税額につき金四六、一五〇円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその一を被告の負担としその余を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「昭和三十年三月三十一日被告が原告に対し自同二十八年一月一日至同年十二月三十一日事業年度分所得金額を金二二七、五〇〇円法人税額を金九五、五五〇円、自同二十九年一月一日至同年十二月三十一日事業年度分所得金額を金一五九、二〇〇円法人税額を金六六、八六〇円とした更正決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は自昭和二十八年一月一日至同年十二月三十一日事業年度(以下昭和二十八年度という)分の所得金額を金三八、九一八円、法人税額を金一六、三三八円とし、自同二十九年一月一日至同年十二月三十一日事業年度(以下昭和二十九年度という)分の所得金額を金三六、一五二円、法人税額を金一五、一六〇円として、前者については同二十九年二月二十八日後者については同三十年二月二十八日いずれも被告に対し確定申告をした。

二、ところが被告は同三十年三月三十一日請求の趣旨記載のような過大な金額を以て更正決定をなして来たのでこれに対し原告は同年四月四日被告に対し再調査の請求をした。

三、これに対し同年六月三十日再調査請求棄却の通知を受けたので同年七月四日大阪国税局長に対し審査請求をした。

四、大阪国税局長は同三十一年四月九日右審査請求を棄却したが実際の所得金額は別紙貸借対照表及び損益計算書のとおりで被告のなした更正決定額は過大である。

五、被告はその主張において第一に金銭出納簿の残高と実際現金在高とが一致せず且つしばしば赤字を示しているというが原告の金銭出納簿の残高は別表一記載のとおりで常に実際現金在高と一致し且つ赤字となつていない。また被告は現金残高の赤字をなくして記帳するため任意に仮受金や借入金勘定を起して辻褄を合わせているというが原告会社は資本金わずか五〇〇、〇〇〇円であるから資金回転の状況によつて時々手持現金が不足することがあり止むなく代表者個人の現金を一時借入れることがありこの場合に借入金或は仮受金として記帳したもので何ら帳簿面を糊塗していない。また期末籠高についても計上洩れはない。流質品は実際処分(売却)した時に流質として整理し三ケ月経過後と雖も籠品として整理している。

六、被告は昭和二十八年度分について(一)帳簿外現金で代表者が保有していたもの金一六四、〇〇〇円ありというが、かゝる事実は全然ない。(二)金七三、五四一円相当の未処分流質品ありというが未処分流質品は籠高に全部算入済みである。(三)籠高計算洩れ金七、六五〇円ありというが計算洩れはない。

七、被告は昭和二十九年度分について(一)帳簿外現金で代表者が保有していたもの金三四〇、〇〇〇円ありというがかゝる事実はない。(二)籠高中三ケ月の期限を経過したものゝ不確定なる未収利子を加算することは不当である。(三)課税標準所得額は総益金から総損金を差引いたものでなければならない。従つて質屋業としては別紙損益計算書の通り出質高、流質処分高、受取利息、期末籠高の合計が即ち総益金でこれから総損金である期首籠品高及び入質高、営業費の合計を差引いたものがその年度の所得金でこれに税務計算上損金に算入しない市町村民税金六、三四〇円を加算したものが課税標準所得額である。被告はこの計算を見ず単に金銭出納簿が符合しないという理由のみで更正決定をしているが単に帳簿の不備を以て過大なる決定をすることは無理である。

八、本件審査請求について大阪国税局協議団神戸支部勤務協議官水垣綾夫が原告会社に臨み調査した結果(一)利子収入について商品出入帳と利上帳とが符合しないとか(二)流質について証憑書類と代表者記入の金銭出納簿とが又流質明細書と商品出入簿とが符合しないというが調査係官はその符合しない金銭を算出確認すべきである。(三)灘警察署へ申請の台帳数と調査の際呈示した台帳数とが一致しないというがそれは本件に関係はない。(四)営業費については個人関係のものは記帳していない。(五)盗品関係については雑損失として記帳している。(六)金銭出納簿の残高は実際の現金在高と一致している。(七)仮受金、借入金と金銭出納簿との関係については、入金として記帳することを忘れて後日記入したものもあるがこれは皆実際に借入れ又は仮受けしたものに相違ない。(八)商品出入簿については昭和三十年一月十四日以降の記入がないというが同日以降の分の明細は質物台帳及び金銭出納簿に記入してあるから重複記入する必要はない。(九)台帳、質札、ヱフについて実際使用数と購入数とが一致しないというがこれは本件とは関係がない。(十)質物台帳の起算日が灘警察署へ申請した月日と距つており又申請冊数と使用冊数とが異つているというがこれも本件とは関係がない。

九、原告会社は元個人営業であつたが昭和二十七年四月十七日株式会社組織となり同年度から法人税の納付をしている。そして同年度の所得金額は金二八、二〇〇円であり、これに対する法人税額は金一一、八四〇円でこれは同二十八年七月三十日付被告が決定したものであつてこれを昭和二十八年度及び同二十九年度の原告主張の所得金額と比較して均衡を得ている。

十、被告の主張は要するに原告の各種帳簿を調査したところ記入洩れや金銭出納簿に赤字があること等を綜合して原告の主張は信用し難いから結局被告の更正決定は正当であるという点にあるが、原告としては税務会計は一切を訴外税理士山口初次郎に依頼してその指示を受けているのであつて甲第三号証(金銭出納簿)同第四号証(商品出入簿)の記載に徴しても意識しない誤記はあつても整然且明瞭に記入されてあること並に昭和二十八年度同二十九年度における原告主張の所得金額が昭和二十七年度(二八、二〇〇円)同三十年度(四六、八二六円)同三十一年度(二八、二〇四円)の各確定申告所得額に比較して均衡を得ており、営業について特別な大変化のない限り極めて正当なものであつて被告の主張は失当である。と陳述した。(立証省略)

被告指定代理人らは「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告は肩書住居において質業を営む資本金金五〇〇、〇〇〇円の株式会社である。

二、請求原因事実中、第一項については昭和二十八年度分の法人税額が金一六、三三〇円であることの外はこれを認める。第二項については右年度分の法人税額を金九五、五五〇円、重加算税額を金三六、〇〇〇円と更正決定したことの外はこれを認める。第三項はこれを認める。第四項については大阪国税局長が審査決定をしたことの外はこれを争う。被告は次のとおり主張する。

一、原告の提出した本件法人税申告書に基き被告の調査担当係官灘税務署直税課勤務大蔵事務官仲利夫が原告会社に赴いて調査をしたところ原告のような金融事業を営む業態では経理は勿論営業のためにも中心となるべき、一日もその記帳管理をゆるがせにできない金銭出納簿の残高と実際の現金在高とが常に一致しなかつた。又その帳簿残高は次のとおりしばしば赤字を示している。(現金出納簿を正当に記帳しておれば残高が赤字になることは絶対にあり得ないことである。)原告会社代表者作成の帳簿の各月末残高は別表二のとおりである。この残高の赤字をなくして記載するために任意に仮受金や借入金勘定を起して入金があつたこととし公表している帳簿面を糊塗していた事実を発見したのである。この他期末籠高(質の貸出中になつているものゝ貸金合計高)を照合した結果計上洩れや未処分流質品(籠高中三ケ月の期限を経過したもの)に対する評価をしていない事実等がありこれらについて詳しく調査し夫々の事実について真否を究明した上で次のとおり更正したのである。即ち昭和二十八年度分については(一)帳簿外の現金で代表者が保有していたもの金一六四、〇〇〇円(二)未処分流質品の評価額金七三、五四一円から籠高金五六、五七〇円を差引いた金額即ち未処分流質品の評価益金一六、九七一円(三)籠高計算洩れ金七、六五〇円(四)原告が申告した所得額金三八、九一八円を合計した金二二七、五三九円の内、金百円未満の部分を切捨てた金二二七、五〇〇円を課税標準として更正し、昭和二十九年度については(一)帳簿外の現金で代表者が保有していたもの金三四〇、〇〇〇円(二)未処分流質品の評価額金二五七、一一四円から籠高金一九七、七八〇円を差引いた金額即ち未処分流質品の評価益金五九、三三四円(三)市民税等金七一二円(四)当期中間事業税金一、九四〇円(五)原告が申告した所得額金三六、一五二円の合計額金四三八、一三八円から(1)借入金六〇、〇〇〇円(2)前年度において被告が更正した金額中原告が否認した金額金一八八、六二一円(3)未納事業税金一九、九九二円(4)未納利子税金一〇、二七〇円の合計額金二七八、八八三円を差引いた残額金一五九、二五五円の内、金百円未満の部分を切捨てた金一五九、二〇〇円を課税標準として更正したのである。

二、原告の本件審査請求に基いて大阪国税局協議団神戸支部勤務協議官水垣綾夫が原告会社に臨み調査した結果は次のような状態であつた。(一)利子収入については商品出入帳と利上帳とが符合せず正確な数字の把握は困難であつた。(二)流質については証憑書類と代表者記入の金銭出納簿とが、又流質明細書と代表者記入の商品出入帳とが夫々符合しない。(三)灘警察署へ申請の台帳数と調査の際呈示された台帳数とが一致しない。(四)営業費については個人関係費用と認められるものを支払つている。(五)盗品関係については元帳に完全に整理されていない。(六)金銭出納簿については調査の都度実際現金在高と記帳残高とが一致しない。(七)仮受金、借入金と金銭出納簿との関係については代表者記入の金銭出納簿の残高は屡々赤字になり、それを後に至つて税理士の事務員の手により借入、借受の名目で入金が有つたようにして公表する帳簿の体裁を整えている。(八)商品出入帳については昭和三十年一月十四日以降の記入がなく既に九ケ月も放置のまゝである。(九)台帳、質札、ヱフについては実際使用数と購入数とが著しく相違する。(十)質台帳については各台帳の起算日が灘警察署へ申請した月日と著しく距たりしかも申請冊数と使用冊数が異つている。以上の諸点から原告の提出した帳簿、証憑書類によつては審査請求の趣旨を認めることはできず、被告の更正処分の理由並に方法は極めて正当と認められたから大阪国税局長は審査請求を棄却したのである。原告代表者記入の金銭出納簿残高がしばしば赤字になるのは収入の記帳除外に原因している。税理士が記入している金銭出納簿は代表者が記入している金銭出納簿残高の赤字を架空の借入金、仮受金等で辻褄を合わせている。従つて期末に右の架空の借入金、仮受金を返済したのは現金在高を正規の帳簿に記載していたものを帳簿外現金としたことに過ぎないのであるからこの額を帳簿外現金と認定したのは決して不当なものではない。原告が提出した帳簿資料では真実の取引を調査しそれに基いて正確な損益計算をするという方法がとれないから前記のように資金の動きから脱漏所得を把握したことは当然の措置である。と陳述した。(立証省略)

理由

被告が昭和三十年三月三十一日付を以て原告に対し昭和二十八、九年度の所得金額並に法人税額を原告主張のとおり更正決定したことは当事者間に争いがないから以下各争点について判断する。

一、昭和二十八年度の所得額につき

(1)  成立に争いのない甲第三号証(金銭出納簿)によれば原告会社は昭和二十八年十二月三十一日金一六四、三三五円を代表者個人からの借入金支払として支出していることが認められる。そして右に照応する代表者個人からの借入金の記載は勿論甲第三号証にあるがこれが果して真実代表者個人からの借入金か否かは疑わしく、証人山口初次郎の証言と原告会社代表者本人の尋問の結果を除いては右借入金の存在を首肯せしめるに足る証拠がなく右両者の供述も証人仲利治同水垣綾夫の各証言に照して措信し難い。すると右金一六四、三三五円の支出は費目不明の支出ということになるからこれは代表者保有の帳簿外現金と認めるべきである。

(2)  金七三、五四一円相当の未処分流質品の存在についてはこれを認めるに足る証拠がない。従つて未処分流質品評価益金一六、九七一円は認められない。

(3)  証人仲利治の証言によれば右年度中における金七、〇〇〇円相当の籠高記帳洩れがあることが認められる。

(4)  同年度分の原告申告の所得額が金三八、九一八円であることは当事者間に争いがない。

すると同年度の原告所得額は右(1)(3)(4)を合計した金二〇九、九一八円となる。

二、同二十九年度の所得額につき

前記甲第三号証によれば

(1)  同年十二月二十九日及び三十一日の両日に合計金三四〇、〇〇〇円を代表者個人からの借入金返済として支出していることが認められるが、これは前年度の場合と同様な理由で代表者保有の帳簿外現金と認めるべきである。

(2)  金二五七、一一四円相当の未処分流質品の存在についてはこれを認めるに足る証拠がない。従つて未処分流質品評価益金五九、三三四円は認められない。

(3)  市民税金七一二円及び(4)中間事業税金一、九四〇円については原告は明らかにこれを争わないから原告はこれを自白したものと看做す。

(5)  同年度分の申告所得額が金三六、一五二円であることは当事者間に争いがない。

右(1)及び(3)乃至(5)の合計額金四三八、一三八円から差引くべき(イ)借入金六〇、〇〇〇円、(ロ)前年度において被告が更正した金額中原告が否認した金一八八、六二一円、(ハ)未納事業税金一九、九九二円、(ニ)未納利子税金一〇、二七〇円については原告はいづれもこれを明らかに争わないから自白したものと看做すべきである。そして右(イ)乃至(ニ)の合計が金二七八、八八三円なることは計算上明らかである。すると同二十九年度分の原告の所得額は右金四三八、一三八円から右金二七八、八八三円を差引いた金一〇九、九二一円となる。

三、その余の争点につき

(1)  原告は右両年度分の原告申告にかゝる所得額は昭和二十七年、同三十年同三十一年の各年度分の各確定申告所得額に比較して均衡を得ていて営業上特別な大変化がない限り極めて正当なものであると主張し、口頭弁論の全趣旨から被告はこれを争うものと認められるから審按するに昭和二十七年同三十年同三十一年度の各年度分の各確定申告所得額が原告主張のとおりであることは被告は明らかにこれを争わないから被告は右事実を自白したものと看做すべきである。しかしながら右両年度を挾む昭和二十七年同三十年同三十一年の各年度分の各確定申告所得額がそれぞれ金二八、二〇〇円、金四六、八二六円、金二八、二〇四円であつて昭和二十八年度分の原告申告所得額金三八、九一八円、同二十九年度の同金三六、一五二円と比較して甚だしい差がないことは原告主張のとおりであるが、この事実から右両年度分の原告申告所得額が正当なものであるとすることはできない。何となれば昭和二十七年同三十年同三十一年の各年度分の各確定申告所得額が前記金額であることは即ち右各年度分の原告の実際の所得額が右金額であるとは限らないからである。これは被告が毎年度多数の申告者について逐一調査することは煩に堪えないところであるから相当程度実際の所得額と申告所得額とが距つていることが推測される場合でも不問に付する場合が考えられるからである。従つて前記両年度の申告所得額が前記三ケ年度の各確定申告所得額と比較して均衡を得ていてもその故を以て右両年度分の申告所得額が正当であるということはできない。

四、以上認定のとおり原告の昭和二十八、九年度分所得金額はそれぞれ金二〇九、九一八円、金一〇九、九二一円であるから右各年度の法人税額は法人税法により右金額にそれぞれ百分の四十二を乗じて得た金八八、一五〇円及び金四六、一五〇円となることは計算上明らかである。すると被告のなした前記更正決定の取消を求める原告の本訴請求中右認定の金額を超える部分についてはその理由があるから右の限度においてこれを認容し、原告のその余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 白井守夫 武田正彦)

(別表省略)

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